2016年9月に日本銀行が長短金利付き量的・質的金融緩和を導入した際、イールドカーブコントロールを実施するというニュースをご存知の方も多いことでしょう。
イールドーカーブコントロールとは、10年物国債の金利を0%程度で推移するように買い入れを行うことで、短期から長期までの金利全体の動きをコントロールします。一般的に長期金利を日本銀行など中央銀行がコントロールすることは容易ではない、という見方をされる中、主要国で初めて日本が導入しました。
ではそもそも「イールドカーブ」とは一体どのようなものなのでしょうか?
実は「イールドカーブ」を知っておくと、自分が投資する時にも役立てることができます。
そこで今回は、イールドカーブとは何かはもちろん、個人投資家としてどう活用するかまで詳しく解説していきます。
この記事の目次
イールドカーブとは?
イールドカーブとは、下記のように債券の利回りと償還期間との相関性を表したグラフのことです。
引用元:大和証券 金融・証券用語解説[イールドカーブ]
上記のように、縦軸に「利回り」横軸に「満期までの期間」を用いてグラフ化します。基本的にどのようなタイプの債券でも作成できますが、多くの場合、国が発行する国債でイールドカーブが用いられることが一般的です。
ここで債券の利回りと、満期までの期間との関係について触れておきましょう。
一般的に債券は、満期までの期間が長いほど利回りが高くなります。これを理解するために、お金を貸す側の立場から考えてみましょう。
たとえば以下の場合で、AさんとBさんのどちらが信用できるでしょうか?
100万円をAさんとBさんにそれぞれ貸し出します。
Aさん:1年で返済
Bさん:10年で返済
おそらく早くお金を返してくれるAさんの方が信用できるのではないでしょうか? なぜならばBさんのように長期間に渡って貸し出せば、その分貸し倒れる可能性が高くなるためです。
ではこの時、AさんとBさん同じ条件で貸し出すかというと、そうではなく金利をそれぞれ別で設定します。今回の場合はAさんが1年、Bさんが10年で返済するため、Bさんの方が金利を高く設定することが一般的です。
このように借入れを長期にするほど金利が高く設定されます。これは国債でも同じで、短期の国債よりも長期の国債の方が金利が高くなる傾向があります。国債も言い換えれば、国にお金を貸し出すからです。
つまりイールドカーブは、時間の経過と共に利回りが上がっていくことから、右肩上がりになっていくのが基本です。ただしこれは景気が上向いてる時だけで、状況によってイールドカーブの傾きは変わります。以下でイールドカーブの3つのパターンを紹介します。
イールドカーブを見ると何がわかるのか?
イールドカーブを見ることで、景気が成長期または後退期かを判断することができます。他にも中央銀行が行う金融緩和の効果まで見ることも可能です。
このようなイールドカーブですが、実は以下のように3つのパターンに分けることができます。
- 順イールドカーブ
- フラットなイールドカーブ
- 逆イールドカーブ
それぞれについて詳しく解説してきます。
(1)順イールドカーブ
引用元:PIMKO イールドカーブとその重要性
順イールドカーブは短期金利が低く、長期金利が高い状態です。これは経済が成長期に見られるもので、投資家が将来的にインフレになる見返りとして、長期債券に高い利回りを求めることでこのような曲線を描きます。
このように短期金利が長期金利に比べて低い状態は、銀行が融資を増やすことで、借入れを行う企業の事業活性化に繋がります。
さらに住宅ローンの変動金利が、短期金利を基準に決定されることから、変動金利が下がることで借入金利が下がり、住宅ローンを利用した人は住宅を購入しやすくなるでしょう。
では短期金利と長期金利が同等になった時の「フラットなイールドカーブ」とはどのような状態なのでしょうか? 以下で見ていきましょう。
(2)フラットなイールドカーブ
引用元:PIMKO イールドカーブとその重要性
フラットなイールドカーブは、経済が成長期から後退期に、後退期から成長期に向かう時に現れます。特に急激な経済が成長期の場合、中央銀行がインフレを抑えるために金利を引き上げる時はフラットなイールドカーブになりやすいです。
この点についてもう少し詳しく説明します。
経済が成長することはいいことですが、景気が過熱しすぎると株価や土地の値段が上がり、物価も急上昇します。物価が上昇するとインフレの状態となり、経済が混乱してしまうのです。
たとえば第一次世界大戦後のドイツや、2008年のジンバブエ、2019年のベネズエラのように「ハイパーインフレ」の状態となり、経済が壊滅状態に陥ってしまいます。2019年のベネズエラでは、100円で購入できたものが1ヶ月で268万円になってしまいました。
このような状態を避けるために、中央銀行は金利を引き上げて経済の過熱を抑えます。その際、短期金利を引き上げることで、フラットなイールドカーブを形成するのです。
では最後に短期金利が長期金利を上回る、「逆イールドカーブ」の状態について説明していきます。
(3)逆イールドカーブ
引用元:PIMKO イールドカーブとその重要性
逆イールドカーブの状態はめったに見ることがありませんが、金利とインフレ率がともに下降している景気後退期に現れます。
中央銀行が金融政策のために短期金利を上げても、景気が悪くなる兆候があると長期金利が下がる真逆の現象が逆イールドカーブの状態です。逆イールドカーブの状態は、銀行も融資に消極的になるため、借入れを行いにくい環境となり景気が冷え込みます。
過去にはアメリカで2000年と2007年に逆イールドカーブの状態が発生しました。逆イールドカーブの兆候が現れると、景気後退の予兆ととらえられ、株価も下がる可能性が高まります。
以上のようにイールドカーブには3つのパターンがあることを解説してきました。それではこのイールドカーブを用いて、どのような投資戦略を立てていけばいいのでしょうか? 次の章で詳しく説明していきます。
イールドカーブの活用方法
これまで説明させて頂いたとおり、イールドカーブを確認することで、経済が成長しているまたは後退しているのかを知ることができます。つまりイールドカーブを確認すれば、今が投資するタイミングかどうかを見極めることができるでしょう。
一般的に景気は、6~7年かけて上昇し、1~1年半程度で下降するサイクルを描きます。このサイクルを踏まえて、イールドカーブを確認し、投資をするタイミングや資金を引き上げるタイミングをつかむこともできるでしょう。
ただし銘柄によっては、逆イールドカーブの状態である景気後退期に伸びるものもあります。たとえば景気サイクルと相関関係が低いセクターである、医薬品や生活必需品、公共事業などが挙げられるでしょう。
このような銘柄は逆イールドカーブの状態に突入して投資することも一つの投資戦略といえます。イールドカーブを用いて景気を先読みしてみてもいいのではないでしょうか?
景気を先読みして投資に活かそう
イールドカーブについて解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
イールドカーブを理解することで、景気を先読みして投資タイミングを検討できる他に、資金を引き上げて利益を確定させるタイミングを見極めることもできます。
またイールドカーブを確認する上で、中央銀行が行う金融政策にも注目していきましょう。よくニュースで、中央銀行による金利の引き上げまたは引き下げの話題がありますが、これらは今後の景気を見極める上で重要な判断材料となります。
イールドカーブを用いて投資のタイミングを見極めていけるようになりましょう。