タックスヘイブンはなぜ問題なのか、意外と知られていない現状も

「タックスヘイブン」と聞くとネガティブなイメージを持たれる方が多いでしょう。タックスヘイブンという言葉が有名になったのは、2016年4月にパナマの法律事務所モサック・フォンセカによる、「パナマ文書」が公開されてからではないでしょうか?

しかしタックスヘイブンそのものについては、違法性はなく、財産の保全や投資の分散化で利用されることは珍しくありません。
そこで今回は、タックスヘイブンについてはもちろん、どのような問題があるのかについて詳しく解説していきます。

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タックスヘイブンとは? 代表的な国や地域を紹介

タックスヘイブン
タックスヘイブンとは課税が完全に免除、または著しく課税が軽減される国や地域のことを指します。一般的には、法人税率が20%以下をタックスヘイブンと定義しますが、明確な定義はありません。

ちなみにタックスヘイブンとよく混同される「オフショア」ですが、こちらは「海外」を意味し、オフショアの一部がタックスヘイブンと理解しておくとわかりやすいでしょう。ではどのような国や地域がタックスヘイブンとされるのか、有名な場所をいくつかピックアップしてみます。

タックスヘイブンの代表的な国や地域
香港、シンガポール、ケイマン諸島、バージン諸島、パナマ、リヒテンシュタイン、スイス

たとえば香港であれば、利益のうち200万香港ドルまでは法人税率が8.25%で、シンガポールは中小企業向けの税額控除後で13.0%、ケイマン諸島にいたっては0%となっています。ちなみに日本の法人税率は23.2%で、中小法人は年800万円以下の所得については19.0%です(2021年3月31日までの期間限定で15.0%)。

参考:国税庁”法人税の税率”

タックスヘイブンと呼ばれる国や地域は、島国など小さい国であることが多く、有力企業が育ちにくい環境にあります。そのため税率を下げて、世界の有力企業の誘致に力を入れているのです

このようにタックスヘイブンと呼ばれる国や地域は、日本などの先進諸国に比べ法人税などの税率が低いことが特徴です。そのため先進諸国の企業は、会社の子会社をタックスヘイブンに設立し、子会社に売上を集約させて法人税の節税を行うことがあります。

このような子会社はタックスヘイブンで登記はされていますが、現地で営業活動はしていないため、「ペーパーカンパニー」と呼ばれます。アメリカのIT大手のAppleやGoogleなどの企業も、ペーパーカンパニーを保有しているという報告もあるのです。

日本にもタックスヘイブンが存在する?

実は日本にも、実質的にタックスヘイブンとして活用されているのでは?という地域があります。この問題が発覚したのは、2020年4月28日に日本政府が国民全員にマスクを配布する、いわゆる「アベノマスク」の受注先が公開された時です。

マスクの受注先は複数あり、そのうちの一つがユースビオという会社で、代表者名も書かれておらず、「怪しい」という声が上がっていました。そこでわかったことが、この会社の登記は、東日本大震災の復興による特別処置で、法人税免除の復興産業特区で法人税が実質5年間無税の処置がとられていた福島県にありました。

これだけでは問題にならなかったのですが、実はこの特区には同じ住所に複数の会社が存在し、「日本のタックスヘイブン」になっていないか?との声が上がったのです。もちろん中には元からあった地元の企業もあり、全てが節税対策というわけではなく、違法性もありません。

ただ復興のための特別処置にも関わらず、タックスヘイブンとして活用されるのは、倫理的には疑問が残るため問題となったのでしょう。

タックスヘイブンは何が問題なのか

タックスヘイブンそのものには違法性はありません。では一体タックスヘイブンの活用が広がると、どのような問題が出てくるのでしょうか。以下でタックスヘイブンの問題点を挙げてみました。

タックスヘイブンの問題点

  1. 税収減による財政悪化
  2. マネーロンダリングとして活用
  3. 貧富の格差の拡大

とりわけ大きな問題となってくるのが①と②です。まず①ですが、タックスヘイブンが広がり、ある国の税収が減少すると、国家の債務が増えて財政悪化につながります。すでに日本や欧米諸国では財政悪化が進んでおり、喫緊の課題として各国には速やかな対応が求められているといえるでしょう。

続いて②ですが、反社会的組織がマネーロンダリングの拠点として、麻薬や武器の取引などの犯罪やテロ行為のためのお金を隠す場所として活用される可能性があります。架空の口座や他人名義の口座を複数利用し、次々に送金を繰り返すと、金融取引の実態が把握できず、事前に犯罪やテロを防ぐことができなくなるかもしれません。

最後の③は、①に関連し国家が税収減で所得の再分配を実施できなくなり、貧富の格差が拡大する可能性があります。たとえば日本であれば、財政悪化により生活保護などのセーフティーネットが機能しなくなることも考えられるでしょう。

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タックスヘイブンが有名になった「パナマ文書」とは?

Wikipedia画面
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』”パナマ文書

タックスヘイブンという言葉が世間に大きく広まったのは、2016年のパナマ文書によるものでしょう。ここではパナマ文書について詳しく説明してきます。

パナマ文書とは、カリブ海沿岸のパナマの法律事務所であるモサック・フォンセカが作成した、1970年代から租税回避行為を記した文書です。その量は膨大で、1,000万件以上に上るとされています。

2015年にドイツの地方紙である南ドイツ新聞に匿名でこの文書が送られ、その後ワシントンD・Cにある国際調査報道ジャーナル連合に送られました。そして分析の結果が2016年に全世界に公開されました。

パナマ文書には、租税回避行為をしたとされる組織や人物名が記載されており、国家の元首や首相、政治家、スポーツ選手など多くの著名人など多岐にわたります。日本における関係組織や関係者名も記載され、IT大手のソフトバンクや大手商社の丸紅、伊藤忠商事、広告代理店の電通の名前が記載されていました。

これにより世界各国でデモなどの反乱がおき、国家元首の交代など政治的な混乱が発生した国もあります。

今後はタックスヘイブンに対する監視が厳しくなる

ニッポンドットコムニュースデータ

参考:ニッポンドットコム ニュース”ソフトバンク939億円申告漏れ=租税回避地子会社の所得で-東京国税局

節税対策のためにタックスヘイブンに企業を設立し、登記のみで営業活動の実態がない企業を「ペーパーカンパニー」と説明させて頂きましたが、今後はこのような処置に厳しく監視が厳しくなる可能性が高まっています。

たとえばパナマ文書で租税回避行為があきらかになったソフトバンクは、2016年に買収した海外企業にペーパーカンパニーがあり、国税局から税金の申告漏れを指摘されました。他にも京セラはタックスヘイブンにある子会社の2017~2018年の所得を親会社と合算せずに税金の申告をしていたため、申告漏れとして国税局に指摘されています。

すでに日本政府は世界に資産を隠し持つ人に対し、租税回避の監視の強化を打ち出しています。40カ国近くの国と連携し、日本在住者が世界の銀行に保有する預金情報などを収集し、国税局に集約させる動きもあります。

さらにOECD(経済協力開発機構)加盟の先進諸国は、タックスヘイブンの国や地域と協定を結び、銀行口座の残高などの情報を先進国の税務当局に自動的に送付する仕組みも導入する予定です。パナマ文書であきらかになったタックスヘイブンを、国を上げて対策していき、監視を強化していくことになりそうです。

今後タックスヘイブンに対する監視は強化されていく

東京国税局
税金対策として海外へ資産を移す行為は、富裕層の間ではごく一般的にされてきました

しかしパナマ文書により、その実態が公になり、私たちの馴染みのある企業や著名人の多くがそのような行為をしていたことにより、一般市民からの反感を買うことになりました。

確かに違法性はないですが、倫理的な部分で疑問が湧く問題であり、今後も先進国を中心にタックスヘイブンに対する監視は強化されていくでしょう。

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