投資の世界でよく見られる「生存者バイアス」をご存知でしょうか?
単語からなんとなく意味は読み取れますが、実は投資初心者が騙されて損をしやすいポイントなので、注意していかなければなりません。
この記事では、生存者バイアスの意味や投資のどんなところに生存者バイアスが存在するのか解説していきます。生存者バイアスについて正しく理解し、本当に良い投資商品を見つけるヒントにしていきましょう。
この記事の目次
生存者バイアスとは?
出典: フリー百科事典ウィキペディア(Wikipedia)”生存者バイアス”
生存者バイアスとは、ある物事について失敗した人をふるい落とし、成功した人のサンプルを集めたため、成功確率が高いように見えてしまう現象のことです。
例えば、ある大学が就職率100%と好評していたとします。数字だけを見ると、学生全員が就職しているように感じられます。
しかし、「就職が決まらなかった人は留年させる」と操作していたらどうでしょうか?就職できなかった人は卒業せず留年するので、就職率の分母に含まれません。
こんな単純なカラクリで、卒業した人は全員就職できている、という就職率100%を達成することができるのです。就職できなかった人に目をつぶり、就職できた人だけを数えているので、これも生存者バイアスの一例です。
このように、実態よりも成功確率が高そうに見えてしまうのが生存者バイアスです。失敗した人には目をつぶり、成功した事例を主に見るため起こる現象です。
投資の世界は生存者バイアスだらけ
残念ながら、投資の世界には生存者バイアスが溢れています。商品を売る立場の銀行や証券会社ですら、自覚なしに生存者バイアスに染まっていることがあります。
よって、投資家は自分の力で生存者バイアスに気づき、その投資方法の本当の成功確率を見極めなければなりません。次の章では、どんなところに生存者バイアスが隠れているのかを紹介していきます。
投資における生存者バイアスの実例
投資の世界では、あらゆるところに生存者バイアスが隠れています。自力で見抜けるようになるためにも、3つの実例を見ていきましょう。
1. ダメな商品を省き、良い商品だけを売る
2. ネット上では大勢の投資家が成功している
3. 過去の相場では勝てるロジック
ダメな商品を省き、良い商品だけを売る
まずは、複数の投資信託を運用する会社でよく使われる生存者バイアスです。
これまでにいくつもの投資信託を販売している会社では、運用成績が良い商品もあれば、悪い商品もあります。しかし生存者バイアスを使えば、「当社の投資信託は他社よりずっと利回りが高く、良い商品です」と宣伝することができてしまいます。
そのカラクリは、成績が悪い商品はさっさと販売停止にしてしまうのです。成績が良い商品だけを販売し、「販売中の投資信託の平均利回り」を算出すれば、当然ながら魅力的な利回りをアピールすることができます。
成績が良い投資信託だって、過去の相場ではたまたま上手く行っただけかもしれません。そういった偶然を利用し、結果を見てから良い商品だけを集めているだけなのです。生存者バイアスがかかっているので、会社の本当の運用のスキルは測ることができません。
ネット上では大勢の投資家が成功している
2つめの例では、悪意ある人がいなくても生存者バイアスが現れることを紹介します。
ネット上でブログやSNSをやっている投資家を見ていると、投資で儲かっている成功者の方が多いです。このような状況を見ていると、「みんな儲かっているのだから、自分も投資で儲けられそうだ」と思えてきます。
しかし、そもそもブログやSNSで投資の情報を発信しようと思うのは、投資で成功している人が多いでしょう。投資で失敗した人は投資を辞めてしまうので、ブログやSNSでも投資情報を発信しません。
したがって、ネット上には成功している投資家ばかり、という状況ができあがってしまうのです。実は見えないところに投資で失敗した人が大勢いるかもしれないことは、理解した上で情報収集をするべきでしょう。
この生存者バイアスは悪意ある人が誰かを騙すためにやっているものではなく、自然に発生する類のバイアスです。誰も悪くないため、疑わずに状況を受け入れ、「投資なら誰でも成功できる」と思ってしまいがちです。
投資はリスクがある取引ですし、成功する人がいれば失敗する人もいます。この点を理解し、成功者の言うことを盲信しないように気をつけましょう。
過去の相場では勝てるロジック
最後に、恣意的(しいてき)にデータを選ぶことで良く見せる、タチの悪い生存者バイアスを紹介します。
例えば、FXや株式の売買方法で「このロジックなら必ず勝てる」と宣伝されているロジックがあると仮定します。データも付属しており、確かに利益が出ていることが分かります。
しかし、このデータがクセ者なのです。過去の相場に対して上手く行くようにロジックや銘柄を選んでいるので、利益が出るのは当たり前です。これも「過去の相場で勝てるロジックや銘柄だけを抽出した」という意味で、生存者バイアスの一例です。
特にFXの自動売買や、新しい株価指数ではこのタイプの生存者バイアスをよく見かけます。自動売買なら、過去の相場で利益が出るようにロジックを組み立てます。株価指数なら、過去のパフォーマンスが良かった銘柄を集めて平均化すれば、「成績が良い新しい株価指数」の完成です。
以上のように、失敗を排除することで成功確率が高く見える事例はたくさんあります。生存者バイアスに騙されると、投資するべきでない商品に誤って投資してしまう可能性があるので、騙されない方法を身につけていきましょう。
生存者バイアスに騙されない方法
投資商品を選ぶとき、生存者バイアスに気づいて自力で本当の成功確率にたどり着かなければなりません。生存者バイアスに気づくのはとても難しいのですが、最低でも以下の2つのポイントは押さえておくと良いでしょう。
1. データの前提を確認する
2. うまい話は信用しない
データの前提を確認する
平均利回りなどの数値があったら、データの前提を確認しましょう。生存者バイアスがかかった数値は、意図的に選ばれたデータに基づいているので、それを識別するためです。
例えば、上述したように「当社の投資信託は他社と比べて成績が良い」と宣伝する運用会社に出会ったとします。このとき、データの前提となる投資信託はどのように選んだのかを調べれば、生存者バイアスがかかっているかどうかが分かります。
「数字は嘘をつかない」と思われがちですが、「数字のマジック」とも言うように、データを出す人のさじ加減でどうにでもなるのが数字です。
どうしてその利回りが算出されたのか、背景にも気を配ることで、騙されるリスクが少なくなるでしょう。
うまい話は信用しない
そもそも、うまい話は信用しないことが重要です。
「1年で資産が2倍」「元本割れしない」「誰でも儲かる」など、大げさな話は疑ってかかるくらいでちょうど良いです。
例えば、実際に1年で資産を2倍に増やせた人が何人かいたとしても、そこにいるのはたまたま上手く行った人だけなのです。資産を2倍に増やそうとしてダメだった人は退場しており、見えないようになっているだけで、実は大勢いるのかもしれません。
生存者バイアスという難しい言葉を解説してきましたが、うまい話を信用しないだけでも、騙されるリスクはかなり下げることができます。魅力的な宣伝に対しては、大げさに言っているだけだろうな、と割り引いて考えることが重要です。
生存者バイアスを理解して失敗のリスクを回避する
生存者バイアスについて解説してきました。
生存者バイアスとは、失敗した人を無視し、成功者だけを見ることです。
この数字のマジックは、投資の世界ではよく見られるため、騙されないよう注意が必要です。
魅力的な利回りだと思ったら、データの前提を調べたり、うまい話がきたらまず疑うことで、騙されるリスクを下げられます。
投資商品を選ぶときは、生存者バイアスがかかっていないか考えて、本当に良い商品を選べるスキルを身につけましょう。生存者バイアスに惑わされないためにも、投資には正しい知識が必要です。書籍やセミナーで基礎知識を養いましょう。